STツムジ@介護分野です。
日々、利用者さんのお宅を訪問している言語聴覚士です。
言語聴覚士は「食べる」「話す」のリハビリテーションの専門家です。
最近、「誤嚥性肺炎」ということばを耳にする機会が増えてきました。
肺炎のなかでも、高齢者に圧倒的に多いと推測されているのが「誤嚥性肺炎」です。
誤嚥性肺炎とは、文字通り、誤嚥が原因で起こる肺炎のことです。
ただ、誤嚥したからといって、必ず誤嚥性肺炎になるわけではありません。
「誤嚥していたら、一切何も食べられない」わけではありません。
「誤嚥しているからもうお手上げ、できることは何もない」わけでもありません。
現場では「この人、食事のたびにむせているし、絶対、誤嚥してるよね。でも肺炎にはならないよね」という人がいます。
なぜ、誤嚥しながらも肺炎にならず食べ続けることができているのでしょうか。
誤嚥させないことよりも、「誤嚥しても誤嚥性肺炎にさせない」ことの方が大事!
今回は誤嚥予防ではなく、誤嚥性肺炎予防について、わかりやすくお伝えします。
誤嚥性肺炎の発症は侵襲と抵抗のバランスで決まる
まず、基本をおさえましょう。
誤嚥=「食物や唾液など空気以外のものがのどを通るときに、声門を越えて気管より深いところに入ること」
食べる道へいくはずの、食物や唾液が誤って、呼吸の道に入ってしまうことです。
誤嚥性肺炎=「口腔内の細菌が付着した唾液や食物を誤嚥し、肺に入ることが原因で起こる肺炎」
ただし、誤嚥をした人すべてに誤嚥性肺炎が起こるわけではないことは先ほども言いました。
誤嚥によって誤嚥性肺炎が生じるかどうかは、「侵襲」と「抵抗」のバランスによって決まります。
少し難しい表現ですが、
侵襲とは「生体内の恒常性を乱す外部からの刺激」という意味。
ここでは侵襲=「誤嚥物の量、誤嚥物の性質」のこと。
抵抗とは「外から加えられる力に逆らうこと」という意味。
ここでは抵抗=「呼吸・喀出機能、免疫力」のこと。
喀出(かくしゅつ)とは、吐き出すことです。
吐き出すと言っても、誤嚥物を口から吐き出さなくても、気管からのどに戻して、再度飲み込むことができればいいのです。
「侵襲」と「抵抗」とのバランスをみた場合。
侵襲>抵抗となれば、誤嚥性肺炎になる。
侵襲<抵抗となれば、誤嚥性肺炎にならない。
と言えますね。
言い換えると、
誤嚥をしても誤嚥の量が少ない
誤嚥物の細菌が少ない
喀出力があって誤嚥物を吐き出すことができる
免疫力が高い
なら誤嚥性肺炎になりにくい。
反対に
喀出力が弱く、吐き出せない
免疫力が下がっている
ような場合には誤嚥物の量が少量でも、誤嚥性肺炎になりやすい。
まとめると、
誤嚥性肺炎の予防には
「侵襲の軽減」と「抵抗の向上」の両方を目指せばよいということです。
「侵襲の軽減」「抵抗の向上」のための5つのポイント
具体的な内容を含めると以下の通りです。
侵襲を軽減するためにできること
1.誤嚥量の軽減
嚥下間接練習/嚥下直接練習/薬物療法/歯科治療/誤嚥予防機能つき介護用ベッドの使用
2.誤嚥物の性質改善
・口腔ケアの徹底
3.胃食道逆流の予防
抵抗の向上のためにできること
4.免疫力アップ
栄養状態の改善/肺炎球菌ワクチンの接種
5.喀出力のアップ
薬剤の使用/呼吸練習
1つずつ詳しくみていきます。
侵襲を軽減するためにできること 誤嚥量の軽減
嚥下間接練習
嚥下間接練習とは、食物を用いないでする練習のことです。
誤嚥のリスクがなく、安全で、介護スタッフやご家族も取り組みやすいです。
方法は口腔(口唇・頬・舌、歯茎)マッサージ、頸部(首)のマッサージや関節可動域練習等があります。
口腔への刺激は意識レベルが低い、なかなか目が開かないような方に食事前に実施すると、目を覚まさせる効果があります。また、唾液量が増え、口のなかで食物をまとめること(食塊形成)がしやすくなる効果もあります。
頸部(首)のマッサージや関節可動域練習は、頸部から肩にかけて、背部のマッサージが効果的。多くの方にとって最も嚥下しやすい姿勢である、頸部前屈位(あごをひいた姿勢)をとれる状態を保つことが誤嚥予防には大事です。
嚥下直接練習
嚥下直接練習とは、食物を用いてする練習のことです。
誤嚥のリスクがあるため、慎重に行わなければなりません。
食事姿勢や食形態の調整、食べ方の工夫、食事介助技術の向上等があります。
意思疎通困難な方の場合は、食べ方を指導しても理解が難しいため、周りの環境を整えることが優先されます。
薬物療法
薬物療法によく使用されるのがサブスタンPです。
サブスタンPは嚥下反射を改善するため、誤嚥量の軽減につながります。
薬については主治医に相談してみてくださいね。
嚥下反射機能の促進が期待できる食品がカプサイシンです。
カプサイシンといえば、唐辛子に含まれる成分。
カプサイシンは口腔内溶解フィルムが商品化されています。
口のなかで少ない唾液でも素早く溶けるフィルムタイプ。
食事の20~40分前の飲用が最も効果が高いそうです。
歯科治療
虫歯があったり、義歯が合っていなかったりすると、咀嚼・嚥下がスムーズにいきません。
義歯がぐらついて安定がよくなかったり、痛みがあったりすると、舌の動きを邪魔して、使うことがむしろよくない場合もあります。
義歯の調整・修理あるいは義歯を作り直すことを検討しましょう。
誤嚥予防機能のついた介護用ベッドの使用
誤嚥予防効果のある、介護用ベッドが出ています。
圧迫感が少なく、嚥下しやすい自然にあごがひいた姿勢がとれる優れものです。
詳しくはこちらをどうぞ。
侵襲を軽減するためにできること 誤嚥物の性質改善
口腔ケアの徹底
口腔内(口のなか)には約800種類の細菌があり、唾液内には口腔内の細菌が大量に含まれます。
誤嚥性肺炎は、細菌を含む唾液や食物の誤嚥がきっかけで起きます。
口腔ケアによって、口腔内(唾液)の細菌数を減らせば、もし誤嚥してしまっても肺炎を起こしにくくなるわけです。
口腔ケアの誤嚥性肺炎予防効果は、大規模は比較研究により明らかになっています。
人の口のなかの細菌数が最も多い時間はいつだと思いますか?
・
・
・
寝起きです。
ですから、朝の口腔ケアは食事の前にも行うとより効果が高いです。
また、胃ろうや静脈栄養等で食べていない方の口腔ケアが見過ごされがちです。
食べていない方の口のなかは、唾液が少なく唾液の浄化作用も期待できません。
食べていない方こそ、口腔ケアが徹底されなければいけません。
口腔ケアがうまくできない場合は、歯科に相談しましょう。
主に口腔ケア目的で歯科に定期受診、または往診してもらっている方は多くいますよ。
侵襲を軽減するためにできること 胃食道逆流の予防
胃内容物が食道に逆流することを胃食道逆流といいます。
その逆流物がのどを通り、誤嚥して誤嚥性肺炎になることがあります。
逆流物に胃液が含まれると、酸性の胃液により、誤嚥性肺炎は重篤になります。
高齢者は胃の噴門部(入口)の機能低下、食道や胃の蠕動運動(食物を送っていくための動き)低下のため、逆流が起こりやすいのです。
食後の姿勢の調整
食べている方、胃ろう等の経管栄養の方に共通するのが
・注入時と注入後1時~2時間は臥床させない(座らなくてもベッドアップ、車いすリクライニングでも可)
流動食にとろみをつける・半固形栄養剤の使用
胃ろう等の経管栄養の方には
・液体栄養剤(流動食)にとろみをつける
・半固形栄養剤を使用する
等の対応策もあります。
液体栄養剤(流動食)専用のとろみ剤も出ていますよ。
抵抗の向上のためにできること 免疫力アップ
栄養状態の改善
低栄養は、筋力低下による咀嚼嚥下や免疫力低下を引き起こす要因となります。
体重や血清アルブミンの値等が目安。
時間帯によって摂取量に差がある場合、1食ずつの摂取量にこだわらず、1日トータルの必要栄養量が摂れていればよいと考えます。
食事で食べられる量が足りなければ、間食や栄養補助食品の利用も検討しましょう。
肺炎球菌ワクチンの接種
誤嚥性肺炎と肺炎球菌の関係を直接的に示した報告はありません。
が、誤嚥の二次感染として肺炎球菌が感染する可能性があり、不潔な口腔内には肺炎球菌が認められることが知られています。
誤嚥性肺炎を防ぐためにも肺炎球菌ワクチンは有効であると考えられています。
ぜひ、主治医にご相談ください。
抵抗力向上のためにできること 喀出力のアップ
薬剤の使用
咳嗽反射(がいそうはんしゃ=咳反射)を改善する効果があるといわてる薬剤には
ACE阻害薬・アマンタジン・シロスタゾール・半夏厚朴湯
が挙げられます。
薬については主治医に相談してみてくださいね。
呼吸練習
嚥下の瞬間は気道が閉鎖され、嚥下性無呼吸が起きます。
この「気道閉鎖=嚥下性無呼吸」が誤嚥防止の大事な役割を果たします。
また嚥下のすぐ後には呼気(吐く息)が出ることも、誤嚥しかけたものを排出し、誤嚥予防の働きがあります。
肺活量が低下した高齢者では呼吸回数が増えて、嚥下をするタイミングがずれて、誤嚥する傾向にあります。
誤嚥予防には、肺活量を保っておくことも重要です。
そのための有効な練習が深呼吸です。
ゆっくり鼻から吸って、口から吐きます。
腕や肩の動きに問題がない方は、息を吸うときに両方の腕を挙げながら行うとより効果があります。
他には咳払い練習・ハッフィングが挙げられます。
咳払い練習もハッフィングも誤嚥物を喀出しやすく効果を狙ったものです。
咳払いは意図的にいわゆる咳をすること。
ハッフィングは、声を出さないで、ハーと強く一気に息を吐く方法。
どちらも強く一気に息を吐き出すことを意識して行います。
おしゃべり・歌も、呼吸して声を出すことが基礎。
歌については、高音を出すことが特に効果が高いですよ。
高音を出すとのどぼとけが上に引き上げられて、のど周辺の筋肉が鍛えられるためです。
まとめ
誤嚥性肺炎の予防の5つのポイント
侵襲の軽減のために
1. 誤嚥量の軽減
2. 誤嚥物の性質改善
3. 胃食道逆流の予防
抵抗の向上のために
4. 免疫力アップ
5. 喀出力アップ
誤嚥していても、誤嚥性肺炎にならなければ食べられる可能性が高まります。誤嚥性肺炎の予防のためにできることを試してみてはいかがでしょうか。
主治医やお近くの言語聴覚士にぜひご相談くださいね。
twitterでご意見をいただきましたので、紹介します。
めっちゃ腑に落ちた!!とろみMAXで食事のたびにむせてる患者さんがいるけど肺炎にはなってない。思えば週に2~3回奥様が面会でめちゃくちゃ喋って喋らせ一緒に歌ってる。だから「むせてしまってる」のもあるけど「むせることが出来てる」っていう考え方もあるのよね。最期まで口から食事して欲しいな。 https://t.co/1xDzx8n5w0
— 刈り上げNs (@kariageNs) 2018年7月13日
そうそう、誤嚥しないようにするのではなくて、誤嚥しても誤嚥性肺炎にならないようにするのが大事なんですよね。
当施設の介護士もちょっとムセたから食事中止みたいなことをしばしばやってて、誤嚥と誤嚥性肺炎についてもっと知るべきだと思いました。 https://t.co/HjQMdoCVUm
— STひとり (@sthitori) 2018年7月12日
今回は、野原幹司先生の著書を参考にしました。
「認知症の嚥下障害」のことが大変詳しく書かれています。
他にも誤嚥・窒息の対応や、終末期の嚥下障害への対応等についても超オススメです。
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