STツムジです。在宅を訪問している言語聴覚士です。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに勤務しています。
訪問で私が担当している利用者さんの4~5割が神経難病の方です。
- PD(パーキンソン病)
- SCD(脊髄小脳変性症)
- PSP(進行性核上性麻痺)
- MSA(多系統萎縮症)
- ALS(筋萎縮性側索硬化症)
などの方がいらっしゃいます。
脳卒中等の「よくなる」方向のリハビリと、難病の「よくならない」方向のリハビリは、目的やポイントが異なります。
私が難病リハビリテーションに関わるうえで、日々、意識していることをお伝えします。
神経難病とはどんな病気?
神経難病とは
①原因がはっきりとわかっておらず、根本的な治療法がない
②経過が慢性的で、長期的な療養が必要
③身体的だけでなく、精神的、経済的な負担が大きい
病気です。
神経難病に対して、一部、進行を遅らせるような薬が開発されていますが、劇的な効果は期待できないことがほとんどで、症状に対しての対症療法にならざるをえません。
症状が徐々に進んでいく、進行性の疾患であり、進行スピードは、疾患にもよりますが、個人差も大きくあります。
訪問先を見ていると、医療保険・介護保険サービスを使っても、ご家族に介護負担が大きくかかっているのが現状ですね。
神経難病は「神経筋疾患」と呼ばれたり、「神経変性疾患」ともよばれたりします。
神経難病のなかでも、医療費助成の対象となる疾患を「指定難病」とよびます。
神経難病のリハビリの目的は現状できていることを「し続ける」こと
神経難病は症状が進行していきます。
難病リハビリテーションの目的は、「よくなること」ではなく、「今より進行させないこと」「今の状態を保つこと」にあります。
リハビリの業界では「維持目的」というような用語を使うことがあります。
例えば、私たち言語聴覚士は「食べる」「話す」リハビリが専門なので、「嚥下機能の維持」「発声・構音機能の維持」などが目標になってきます。
もう少し具体的にいうと、
「軟菜一口大食を自力摂取(し続けられる)」
「カラオケで歌が歌える(歌い続けられる)」
「発語・ジェスチャー・書字・コミュニケーション機器等、あらゆる手段を用いて、意思疎通ができる(し続けられる)」
など、現状できていることを「し続ける」ことを目標にしていることが多いです。
そのためには、段階的に、福祉用具を使用した代償的なアプローチの導入や、介護保険や医療保険のサービスを利用した人的な援助も検討しなければなりません。
よくならないとは言いましたが、「廃用(はいよう)」といって、長期間使わない(使う機会が極端に減っている状態が続いている)ことによって衰えている部分がある場合は、リハビリによって一時的に機能が向上するケースもあります。
基本的には、低下していく機能をどう保つかがリハビリの肝ですね。
難病リハとの長期的なお付き合い
病気が進行していくのですから、基本的にリハビリに途中終了はないと思っています。
私が7年前に入職した時に前担当者から引き継いで担当した利用者さんで、現在でも訪問している方が数名います。比較的、進行がゆっくりの方々です。
もちろん、7年のあいだに亡くなられた利用者さんもいらっしゃいます。
難病の方とは(表現はよくないかもしれませんが)亡くなるまでのお付き合いだと思っています。
このように難病リハビリは長期化しやすいのが特徴です。
難病リハで難しいのは病気の理解や受容ができていない場合
訪問開始したばかりの難病の方。
リハビリでどんな風になりたいですか?
「またテニスがしたい」
言語は?
「病気の前みたいに話せるようになりたい」そうですよね…。
今後も着実に進行すること、わかっていないのか、わかっているけど認めたくないのか。
しかも進行が速そうなんだよな、うーん。— STツムジ@介護分野 (@hidaritsumujist) 2018年10月10日
病気を理解し受け入れることは本当に難しいことです。
頭ではわかっていても、心が受け入れていないような方もいます。
病気や障害を受け入れるには段階がありますので、時期を見て時間をかけながら、少しずつくり返し伝えていかなければならないケースが多いです。
また、病気の説明が医師から全てはされていない場合があります。
一気に末期の状態までの説明をして、患者さんがショックを受けそうだからという配慮から、進行に合わせて、少しずつ説明がされている場合があり、確認が必要です。
周囲が焦って、医師の説明より先んずることがないように注意が必要ですね。
難病リハビリのポイントは、「転倒と誤嚥予防」
以前、担当していたALSの利用者さんに言われたことがあります。
「主治医の先生に言われたの。ガンや心臓の病気と違って、ALSそのものは命を奪う病気じゃないんだって。なるほどなあと思ったわ」
私もいっしょに「なるほど」と思いました。
ALS等の神経筋疾患の症状は、運動や自律神経症状が主。
運動に問題が出てくるので、身体は不自由になりますが、運動ができなくなっても命が脅かされることはありません。
ALSでは、呼吸をするために筋肉が衰えて、発症から数年で自発呼吸ができなくなると言われていますが、人工呼吸器を用いれば、生命維持が可能です。
注意が必要なのは、疾患本来の症状ではない、二次的な問題です。
最も注意が必要なのは「転倒」「誤嚥」。
転倒して骨折、寝たきりになり、認知症が進み、在宅介護が難しくなる。
誤嚥が防げず、誤嚥性肺炎で入退院をくり返すうちに体力が大幅に低下する。
こんな利用者さんをたくさん経験しました。
特に誤嚥性肺炎は、生命の危機に直結する、大変怖い病気です。
難病リハでは「誤嚥予防」が最大の鍵です。
誤嚥予防についてはこちらを参照ください。
難病リハビリでの活動・参加へのアプローチ
難病リハでも、脳卒中のリハと同様に、機能へのアプローチと、活動・参加へのアプローチは車の両輪です。
ただ、難病リハの活動・参加へのアプローチを考えたときに、脳卒中等のリハとの違いがあります。
難病の利用者さんは「やりたい」と言われたことを叶える時間が限られているということです。
確実に病気が進行していきますから「今が一番状態がいいとき」なんです。
先日の訪問時のこと。
パーキンソン病の利用者さんに「やりたいこと」をたずねました。
「○○のコンサートに行きたかったな」
えっ?過去形?
利用者さんは、ある歌手の大ファン。
病気になる前は、ツアーについて全国を回っていたくらいの熱狂的なファンでした。
活動を休止していた歌手が今年ツアーを再開。
ネットで検索してみると、訪問日の前日に近隣開催の回は終わっていました。
ああ、失敗した、もっと早く聞いていたら、外出のお手伝いもできただろうに。
そう思った私に、利用者さんが言いました。
「途中で倒れても困るしね、簡単には行けないよ。病気が治ったら行く」
病気が治ったら…?
ちょうど、パーキンソン病患者に対しての、IPS細胞を使った治験が始まったところでした。
それを受けての発言だったのかもしれません。
病気が治るのを待っていたらいつになるかわかりませんよ!
行きたいと思ったときに行っておきましょう!
今はある程度の会場なら車いす席がありますから!
お手伝いできることは何でもしますよ!
力説する私に、利用者さんは「それもそうだね」と笑っていました。
利用者さんのやりたいことは日々変化する可能性があります。
ですので、数か月に1度(進行がはやい方なら月に1度)は必ず「今やりたいことはないですか?」と確認するようにしています。
その答えに合わせ、何を目標にするかが変わってくるので大事な質問です。
難病の利用者さんが、今の状態で過ごせる時間は限られています。だから本来やりたいことは今すぐに!取り掛かるべきなのですが…実際には難しい場合も多いです。先ほど書いたように、病気の受容ができていないような場合は特にそうですね。
まとめ
- 難病リハビリテーションの目的は現状できていることを、「し続けられる」こと。
- 患者さん(利用者さん)が病気を受け入れられるよう、くり返し伝えること。
- 難病リハのポイントは「転倒」と「誤嚥」予防!
- 「今が一番いい状態!」と心得、すばやい対応を!
難病の利用者さんとは長いお付き合いになることが多いです。人と人との関係をしっかり築いて、心を支える存在でありたいですね。
ALSの運動の基礎知識はこちらから。
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