STツムジ@介護分野です。訪問看護ステーションで働く言語聴覚士です。
先日twitterでこんなことをつぶやきました。
事業所で小耳にはさんだ話。
ALSの方の担当ケアマネから相談。主治医のクリニックで週3回リハビリ。
指導しているのはPTOTではないらしい。
100回スクワットなど、筋トレが中心。
鍛えているはずの下肢から弱っている。すぐに止めなきゃー!
「ALSに筋トレは禁忌」
リハビリ界では常識ですよー。— STツムジ@介護分野 (@hidaritsumujist) 2018年8月3日
このtweetは200回以上、いいねやリツイートされました。
コメントもたくさんいただきました。
twitterでは介護のお仕事をされている方を中心につながっています。
tweetの通り、「ALSに筋トレは禁忌」はリハビリテーション専門職であれば、養成校で習うレベルの誰もが知る常識なのですが、介護職の方々には意外と知られていなかったようです。
ALSの基本知識と運動療法について、知っておくといいよという情報をご紹介します。
ALSの基本知識
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は運動神経系の変性疾患です。
厚生労働省指定の「難病」として特定疾患に認定されています。
- 10万人に対して2~6人の頻度、人種による際はない
- 男女による発症の差は世界的に平均すると、1.6/1.0と男性にやや多い傾向
- 発症年齢は10代~90代
- 家族性(遺伝性)ALSは約10%で、家族性ではない孤発性が主
- 世界的な平均罹患期間は約3年、50%は3年未満、30%は5年以上
- 初めに症状が現れた身体部位により、上肢型・下肢型・球麻痺型・呼吸筋麻痺型の4つに分けられる
球麻痺型とは、構音障害(しゃべりにくい)、嚥下障害(飲み込みにくい)症状から発症した場合をいいます。
全身の運動ニューロンが変性していくので、病状が進行すると、自分で呼吸をすることも難しくなります。
呼吸も筋肉を使った運動だということですね。
TIV(気切呼吸管理=気管切開をして人工呼吸器につなぐ)をすれば、生命予後は平均7.8年とのびますが、ALSの病状の進行が止まるわけではありません。ケースによって違いますが、眼球運動も障害されて、重度コミュニケーション障害になる可能性があります。また、一度TIVを選択すると呼吸器を外すことはできません。そのため、およそ1/3の方しかTIVを選択しないのが現状です。
ALSの運動で注意すること
ALSの運動療法で、基本的な考え方は以下の通りです。
根本的な治療法が見出されていない現在、筋力を回復させることは困難かもしれませんが、遅らせることは可能です。また、二次的に起こる、関節が固くなったり、痛くなったり、日常生活が困難になることについては、予防し改善することが可能です。
新ALSケアブック・第二版 筋委縮性側索硬化症療養の手引き(日本ALS協会 編)より
機能回復を目指すのではなく、筋力や柔軟性をいかに維持するかがポイントですね。
他の疾患と同様に、動かさないことで起こる二次的な問題(関節がかたくなる、痛みが出る)については運動で予防することができます。
ALSの運動で注意すること(新ALSケアブックより抜粋)
運動をした後に筋力低下を感じたり、翌日まで疲労や倦怠感が残るようなら、それはやりすぎです。部分的な痛みが出てきたときは、その部位の運動は少なめにします。全力を出さないとできない運動は、介助してもらい、無理して全力を出さないようにりましょう。頑張りすぎて筋力がより低下してしまうことがあります。
過負荷な運動は、逆に筋力を低下させてしまう危険があります。
負担をかけすぎると「筋破壊を起こす」と表現する場合もあります。
※ALSは個別性が高いので、運動・リハビリテーションの方法については必ず担当の医師に相談をしてください。
過度なリハビリで症状悪化 病院が訴訟を起こされたケース
twitterのコメントで「過去に筋トレしすぎてさらに筋萎縮を招き訴訟になった件があった」と教えてくださった方がいました。
調べてみました。
記事を要約すると、ALS患者の60代の男性が、病院のリハビリで症状が悪化したとして、病院を運営する医療法人や公益財団法人を相手取り、約1570万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
ALS患者は筋肉に過度な負荷をかけると筋力低下を招くとされているにもかかわらず、リハビリ内容は両上肢・両手指への集中的な筋力トレーニングだったため、約3カ月半のリハビリの結果、ドアの開閉やペンを握ることすら困難になるなど、状態が急激に悪化したとしている。
この訴訟がどう進んだのかは、調べてみましたがわかりませんでした。
状態の急激な悪化が、病状の進行なのか、過度な負荷をかけたことによる筋力低下なのか、またそれをどう判定したのか、非常に気になるところではあります。
「信じて受けていたリハビリが実は逆効果だったのでは」と疑いを感じた患者さんの気持ちを想像するととても切なくなります。
事実はわかりませんが、進行が急激すぎて、何かのせいにしないと気持ちが追い付かなかったのかもしれません。(私の勝手な想像です)
病院・施設・スタッフが患者さん・家族に訴訟を起こされるニュースに触れるとドキッとすることがあります。
正しい知識をもって対応することが大切ですね。
口腔顔面の運動の負荷量についての私見
2018年10月8日追記
twitterで口腔顔面運動の負荷量について質問をいただきました。
「ALS患者の運動の負荷量で悩んでいます。口腔顔面の運動は自動運動に留めるべきか、抵抗運動は軽くなら可能か。負荷量はどのように考えたらよいでしょうか」
その方の状態がわからないので、あくまで個人的経験として聞いてくださいと断って、お答えしました。
同じように悩んでいる方も多いと思うので、書いておくことにします。
個人的経験による私見ですので、参考程度にとどめてくださいね。
ALS患者の口腔顔面の運動を行う目的は、筋力アップではなく、可動域(運動範囲)の維持だと思います。
ALSの方のリハビリテーションを多く経験してきて気づいたことは、病状が進行し、話す・食べることができなくなった状態でも口腔ケアは必要だということ。開口域(口をあけられる大きさ)を保っておかないと、スポンジや歯ブラシが入らなくなってしまいます。口腔ケアがうまく行えないと、誤嚥性肺炎のリスクが格段に上がります。
口腔顔面運動は可動域維持目的の自動運動のみ行い、筋力アップ目的の抵抗運動は基本的に行いません。月に1回程度の筋力の評価として行う場合はあります。
ALSの初期段階で、普段話したり食べたりされている方なら、あらためて口腔顔面運動を行わない場合が多いです。
話したり食べたり、口を動かし機会が保たれているからです。
病状が進んで、伝の心や視線入力装置等でコミュニケーションを取っている、経口摂取を行っていないような場合は、口を動かす機会が圧倒的に少ないので、口腔顔面運動を行っています。
ALSの進行に合わせ、運動機会の多寡を評価し、練習内容を変えていくということですね。廃用させない程度に無理せず使い続けるようなイメージでしょうか。
症状やリハビリだけでなく、ALSの患者さんの生活を長期的に支えてくれる必読書です。医療・介護職だけでなく、患者さん・ご家族でもわかりやすい内容ですよ。
難病リハの目的や注意点についてはこちらから。
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