認知症の方が安心して暮らせる社会にしないとみんなが不幸になると早く気づこう

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認知症

STツムジ@介護分野です。

日々、言語聴覚士として、言語障害・嚥下障害等のある利用者宅を訪問しています。

 

2018年5月12日、あましんアルカイックホール。

「認知症の介護と医療」イベントで長尾和宏医師・加藤忠相さん・丹野智文さんが講演されました。

長尾医師・丹野さんは著書を読んで、加藤さんはNHKのプロフェッショナル~仕事の流儀~を見て、お会いしてみたい・お話を聞いてみたいと以前から思っていた方々でした。

 

長尾和宏医師「認知症の基礎知識 在宅医療と看取り」

長尾和宏医師

長尾クリニック院長/日本ホスピス・在宅ケア研究会 理事/日本尊厳死協会 副理事長

 

「千の風になって」をカラオケで歌いながら、スポットライトをあびて登場する長尾医師に会場から拍手が起こりました。

年に120人を平穏死で看取る

長尾クリニックでは年に120人お看取りをしています。

半分ががん患者。

がん患者は平均1.5か月在宅で最期を過ごします。

ただしすい臓がんのような場合は5日間のことも。

 

小林麻央さんが亡くなったとき、最期のときまで話できたという話を信じられないという病院の医師が多かったのです。

実際、在宅医療の現場では痛みのコントロール等がうまくできれば、最期まで話せるし、ぎりぎりまで水分や氷をとれることもあります。

 

在宅医療と看取り ポイント5つ

「認知症になったときに心がけるべきこと5つのポイント」があります。

 

①平穏死=自然死

本来は死に向かっていくのは「枯れていく」イメージ。

過剰な点滴はよくありません。

特にがんは高カロリー輸液(点滴)に含まれるブドウ糖と酸素が大好きです。

がん患者に点滴をして、酸素を投与することは、がんにえさをやっているようなもの。

がんに限らず、終末期に水分が多すぎると、むくんだり、痰が増えて、呼吸がしづらくなったりするので、自然に水分を減らしていくのが理想。

 

②誤嚥と誤嚥性肺炎は別物

誤嚥性肺炎は夜間の唾液の不顕性誤嚥(むせない誤嚥)で起きます。

誤嚥(食べものを食べることで起きる)とは別物。

寝る前の口腔ケアが効果的です。

 

唾液の不顕性誤嚥からの誤嚥性肺炎は確かに多いですが、食べ物の誤嚥からの誤嚥性肺炎も確実にあります。全ての誤嚥性肺炎が唾液の不顕性誤嚥から起きているわけでは決してないことは言っておきたいです!

 

③薬は適量処方で

認知症に対しての薬は4種類あります。

以前は増量規定があったが、1年半前に撤廃されました。

が、それが周知されていない現状。

怒りっぽい、暴力がある、は薬の副作用である場合もあるので、要注意。

薬は適量処方が肝心です。

 

長尾和宏著「薬のやめどき」に認知症薬の増量規定撤廃への運動や、血圧や骨粗しょう症等の減薬について詳しく書かれています。

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④独居でも在宅介護できる

独居でも家で最期を迎えることができます。

今後は「おひとりさま認知症」が標準型になるだろうと考えます。

 

リヴィングウィルのすすめ

リヴィングウィルとは「生前意思」です。

「自分の命が不治かつ末期であれば、延命措置を施さないでほしい」と宣言し、記しておくことです。

リヴィングウィルとは(日本尊厳死協会ホームページ)

 

自分がどういう最期を迎えたいかのイメージを家族と話し合っておくことが大事です。

話し合っておかないと、自分と家族の希望がかみ合わず、家族の希望が優先されてしまうことがあります。

リヴィングウィルは50歳になったら全員残すべきですが、実際には、1~2%の人しか残していないのが現状。

 

劇団 ザイタク(本当の名前は 劇団 死期)の劇のビデオが流されました。

お家で介護していたおじいちゃんの息が止まった。

どこに連絡すべきでしょう? 警察 × 救急車× 在宅医〇
警察に連絡すれば解剖される可能性があり、救急車を呼べば病院に搬送され、望まない処置をされてしまうかもしれません。

必ず、在宅医に連絡を!と啓発されていました。

 

最後も歌。

今度は「夢芝居」の替え歌が流れました。

長尾医師は「梅沢トキオです」と名乗っておられました。

終始、個性が強い先生だなあという印象でした。

 

加藤忠相さん「感情に働きかけるケアーあなたらしさはここにあるー」

加藤忠相氏 株式会社あおいけあ 代表取締役

大学卒業後、特別養護老人ホームに就職。3年後に退職し、H13年にあおいけあを設立。H19年から小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」を開始。

 

午前中に映画「ケアニン」が上映されていました。

「ケアニン」はあおいけあがモデル事業所です。その裏話からお話が始まりました。

 

成功事例の紹介 しげさん

小規模多機能型居宅介護の利用者さん、「しげさん」は元職人さん。

あおいけあに来ると「棚がなってない」と棚をつけ直してくれます。

あおいけあの棚は全てしげさんが作ってくれたもの。

しげさんは電動の丸ノコをもって作業し、「ホームセンター行くぞ」と職員を連れて行き、ペンキを買ってきて、色塗りも。

毎日7000歩あるき、スタッフの犬の散歩をしてくれます。

元気に見えたしげさんは、すい臓がん、余命半年と告知されました。

 

あおいけあのスタッフ、もえちゃんが結婚式を挙げることになりました。

あおいけあの中庭での手作りの結婚式。

もえちゃんにはお父さんがいなかったので、しげさんにバージンロードを一緒に歩いてもらうことになっていました。

結婚式の、一週間前、しげさんの奥さんがお風呂で亡くなりました。

もえちゃんのお母さんは、しげさんをたずね、バージンロードを歩いてもらうことを断ろうとしました。

でも、しげさんは「俺はバージンロードを歩く」と言いました。

 

結婚式は、利用者さんお手製のぎょうざが600個、5段ケーキが用意されました。

神父様も利用者さんです。

もえちゃんとしげさんは、腕を組んで、バージンロードを歩きました。

実際には、花嫁さんが支えながら歩いていたのだけど。

 

ある日、スタッフから連絡がありました。

「これから、しげさんと湯河原の温泉に行ってきます。私一人しかいないので、途中でしげさんは死んでしまうかもしれません」

奥さんが亡くなってから、しげさんのところにはお子さんが交代で泊まりこんでいましたが、ときどき「おたがいさん」にも泊まりにきていました。

でも、この日、しげさんは泊まりに行くことを受け入れませんでした。

以前にご家族で泊まりに行った「湯河原温泉の宿なら泊まる」と言ったのだそうです。

 

「何かあったらどうするんですか?」聞く人がいます。

何かあるのが介護の仕事じゃないですか?

じいちゃん、ばあちゃんがやりたいことを支えるのが介護の仕事です。

 

スタッフは自分で考え、判断しました。

あおいけあでは社長に聞かなくていいのです。

マニュアルはありません。

今この瞬間にじいちゃん、ばあちゃんに必要なことをすればいい。

みんなが考えられるように考えるのが社長の仕事ですから。

 

温泉宿でしげさんは常食を食べ、とろみなしでビールを飲みました。

お風呂には4回入ったそうです。

 

そして、しげさんは5日後に亡くなりました。

 

ケア(自立支援)とは

ケア(自立支援)とななんでしょう。

  • 回復を目指す
  • 保つ
  • 回復も保つこともできなくても、最期まで寄り添う
  • 害を与える

 

「危ないから座っていてください」「余計なことしないでください」とじいちゃん・ばあちゃんに何もさせないようにするのは害ではないですか。

 

デイサービスの写真です。

この椅子にあなたなら、7時間ずっと座っていられますか?

利用者さんは長時間当たり前に座らされます。

3時間後「帰りたいと言う」⇒『帰宅願望』

5時間後「お尻が痛いから歩く」⇒『徘徊』

認知症扱いされてしまいます。

 

介護の目的はじいちゃん・ばあちゃんの自立支援のはずなのに。

じいちゃん・ばあちゃんを支配・管理している。

これでは介護職員は集まりません、続きません。

このような状況を提供しておいて、介護の人材の質が低いとするのはおかしいと思います。

 

あなたが座る椅子じゃないから、この椅子でいいと思うんですよね?

「自分がしてイヤなことは人にしてはいけない」そう思いませんか?

○○苑と書かれたハイエースに自分が乗ることを想像してみてください。

つらくないですか?

何かがずれていると思いませんか?

 

認知症とは

認知症のもとになる病気は70種類以上あります。

その病気に対して「症状」が現れます。

「症状」とは記憶障害・見当識障害・理解判断力の障害等です。

この「症状」は他人から見えません。

 

本人は症状の不安のなかにいます。

不安が強まって出るのが行動(幻覚・妄想・徘徊・暴力・不潔行為等)です。

介護職員がこれらの行動に接すると、行動に拘束をする、薬物投与対応しようとします。

 

これは「支配」「管理」であって、ケアではありません。

本来、対応すべきなのは、症状です。

症状に寄り添い、その方らしさである何が好き?何がしたい?を支援すべきです。

支えることができれば、おじいちゃん・おばあちゃんは困ってないから、ただのおじいちゃん・おばあちゃんです。

 

アルツハイマー型認知症では、記憶を司る海馬が萎縮します。

記憶は低下しても、感情を司る扁桃体は働きます。

無理矢理に何かさせることはありません、最初は笑顔で会うだけでいいのです。

笑顔で繰り返し、やってくる人がいれば、何をしゃべったかはわからないけど、感情は残ります。

それが感情に働きかけるケアです。

 

ばあちゃんの手続き記憶をなめてはいけない

おたがいさんでは、みんなで食事の支度をします。

どうやったら、ばあちゃんがお茶の用意ができるかな?

今どきの電子ポットは使い方がわからない。

それなら、昔ながらのポットを探してこよう。

それを考えるのが僕らの仕事。

僕らがお茶を出したら、それはただの「お世話」、「ケア」じゃない。

 

のこぎりも、包丁もバンバン使ってもらいます。

認知症で低下するのは記憶のなかでも意味記憶やエピソード記憶です。

手続き記憶(身体で覚えるような記憶)やプライミング(呼び水)記憶は保たれる傾向にあります。

18年のあいだに、手を切っている人は見たことがありません。

お年寄りの手続き記憶をなめてはいけない!

 

世話になる人生を送りたいですか?

子どものためにしてあげる人生がよくないですか?

 

すべきは、スタッフがお年寄りを楽しませるイベントではありませんよ。

お年寄りが地域の人を楽しませるためのイベントをするんです。

 

お年寄りは被介護者ではありません。

お年寄りは社会資源です。

社会資源として地域を支えます。

例えば、地域の清掃活動やグリーン活動で、どんどん外に出て行きます。

 

介護の仕事はお年寄りが元気に質高い仕事を送れるようにすることです。

 

シンポジウムでの加藤さんのことば。

みんな認知症になることをむだに恐れていますよね。

これから全国で700万人が認知症になるんですよ。

認知症がマジョリティー(=多数派)ですよ。

認知症の方が当たり前に安心して暮らせる社会にしないとみんな不幸になる。

そのことに早く気づこう!

 

介護職は本来、とてもクリエイティブな仕事であるはずなのに、実際はお年寄りのお世話で終わってしまっている現状は、もったいない

じいちゃん・ばあちゃんがやりたいことを見つけて支える、そこにやりがいを見出せれば、介護の仕事はとても魅力的な仕事になるのになあと思います。

 

加藤さんがお話しされているあいだに、会場から赤ちゃんの声が響きました。

「赤ちゃん、泣いても大丈夫ですよ。泣くの当たり前ですから」

加藤さんのそばをトイレに行くおじいちゃんが通りました。

「全然大丈夫ですよ。行って下さい」

声のかけ方が絶妙で加藤さんの優しさがにじみ出ていて、一気に加藤さんのファンになりました。

 

丹野智文さん「僕、認知症ですー丹野智文43歳のノート」

若年性認知症当事者

 

僕は認知症とともに生きています。

認知症=終わりではありません。

薬より環境が大切

認知症になって辛いのは、病気になったことではなく、妻・子ども・両親に心配をかけていること。

認知症をオープンにしたら、助けてくれる人の方が多かった。

薬による治療も大事だが、人と人とのつながりの環境の方が大切です。

パートナーに支えてもらいながら、いっしょに行動します。

 

認知症だからと言って、できることを奪わないでください。

時間をください。

待っていてください。

1度目は無理でも2度目はできるかもしれません。

ここは助けて、ここはできるからいっしょにやろうと必要なところだけ助けてくれればいいのです。

 

認知症当事者は自信をもつことが大事です。

自信を失うと全てを失ってしまうから。

失敗しても怒られない環境がいいです。

 

認知症当事者も失敗したことはわかっています。

でもなぜ失敗したのかがわかりません。

話し方や言い方によって、感じ方が変わります。

不安が強いと、怒られたと感じやすいです。

 

迷惑をかけたくない→何もやらない→うつになってしまいます。

 

自己決定すること、自分らしい生活をするためには、守られるのではなく力を借りて自分でやってみることが必要なのです。

 

診断から介護保険までの無支援の期間

認知症には早期発見が大事だと言われます。

診断されてから、介護保険が使えるような状態になるまで、空白の期間があります。

 

重度の認知症方のための支援はたくさん用意されています。

でも、みんな重度になるまでに長い時間を過ごします。

そのあいだの公的な支援が、ほとんどありません。

支援がないなら、早期に診断する意味がありません。

早期発見=早期絶望となってしまいます。

 

認知症は30代、40代でもなります。

でも、認知症になったからといって「終わり」ではありません。

周りができないと決めつける、特に家族が何でもやってしまう。

家族の優しさが、悪い方向へ導いています。

家族が本人は話せませんと代弁しているけど、本当は話せるケースは本当によくあります。

 

認知症になる前の姿を追い求めてしまうのはわかります。

今までのようにいかないことを受け入れる、良い意味で「あきらめる」ことも必要です。

 

認知症になっても、新しい人生を作っていけます。

自分も家族も認知症を受け入れる環境が大切だと思います。

 

430名のお客さんがみんな彼女というお人柄

認知症になっても大丈夫な社会を作ってほしい。

誰もがなる可能性がある、自分事としてとらえてほしい。

 

僕は車のセールスをやっていたときは430名のお客さんがいました。

マメに、はがきを書いて、電話をして、車と関係ない話をたくさんしました。

自分のことを好きになってもらうことがまず大事だと思っていました。

お客さんがみんな彼女だと思っていましたよ。

 

「忘れたっていいや」と楽観的にとられるようになりました。

失敗しても認知症だから仕方がないよ、うまくいけばラッキー!!なんだ。

 

同じ車の会社にお勤めで、今は採用の仕事を担っているという丹野さん。学生さんたちとしゃべるのが楽しいと話しておられました。

長尾先生の名前を何度もたずねる様子がなければ、認知症であると感じられないくらいはつらつとされていました。

 

まとめ

長尾医師:「おひとりさま認知症が標準型へ」

加藤忠相氏:「介護はケア お年寄りが元気で質高い生活を送れるようにすること」

丹野智文氏:「認知症の人ができることを奪わないで」

 

 

長尾医師より案内がありました。

神戸フォーラム2018

「誰でもわかる 尊厳死・平穏死基礎講座

~その時が近づいても慌てないために知っておきたいこと~」

会場:JEC日本研修センター神戸元町4階 大会議室・A2

日本ホスピス・在宅ケア研究会ホームページより参加申し込み可能。

2019神戸フォーラム 日本ホスピス・在宅ケア研究会 | 愛を育むまちづくり~ふれ愛・ささえ愛・わかち愛~

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