
訪問歴10年になる言語聴覚士(ST)のツムジです。
友人のお父さんがくも膜下出血を発症し、2か月の入院を経て、最近、退院してきました。
友人から入院中や退院してからの話を聞き、病院スタッフは病院と在宅生活のギャップに気付いてないんじゃないの!と、もどかしくも、腹立たしくもありました。
くも膜下出血を発症したAさん
友人のお父さん(Aさん)は、くも膜下出血後に脳動脈瘤をクリッピングする手術を受けました。
脳出血も前頭葉に起こしていたそうです。
医師から、麻痺が起こる可能性があり、前頭葉の脳出血の影響で高次脳機能障害が残るだろうと説明されました。
手術後なかなか意識が戻らず、その段階での医師からの説明では、このまま意識が戻らない可能性もあると言われました。
しかし、Aさんは脳梗塞発症のリスクが高い脳血管攣縮期を乗り切り、発症から3週間後くらいから次第に意識がはっきりしてきました。
Aさんの身体機能・高次脳機能
全身状態が安定したところで、リハビリ目的で同じ病院内にある回復期病棟へ移りました。
この頃のAさんは、筋力低下は強くありましたが、麻痺の影響はほとんどなく、軽く支えてもらえば歩けました。まだふらつきがあり、危なっかしい様子だったと言います。
ただし、Aさんは妄想的とも言えるような思い込みが強く、衝動的で自分の気持ちや行動を制御するのが難しかったようです。
病気の認識がないようで、特に夕方になる繰り返しと「うちにかえる」と言っては家族を困らせました。
ふらふらしながら歩き始めてしまうため、病棟では短い期間でしたが人手がなくなる夜間は拘束され、その後はセンサーマットを使用していました。
記憶もしづらくなっており、一度納得したことを何度も蒸し返してはトラブルになりかけたこともあったとのこと。
「これが先生が言われていた高次脳機能障害か」と家族は困惑しました。
家族はこの状態で家に帰ってこられても生活できないと頭を抱えました。
家族はインターネットで情報収集をし、早めにできることはしておこうと、介護保険の申請を行い、「要介護5」と認定を受けました。
回復期病棟でのリハビリテーション
回復期病棟での本格的なPT・OT・STのリハビリテーションが始まりました。
意識レベルがクリアになるにつれて、身体機能も高次脳機能も日ごとに目に見えて回復。
「奇跡的だ」と医師も驚く回復ぶりだったそうです。
家族は毎日のように病院をおとずれ、Aさんとなるべくいっしょにいるような時間をとりました。
OTが行った高次脳機能検査でも、評価のたびに大きく改善が見られました。
退院の話が出始めたころには、Aさんの能力はばらつきはあるものの、年齢相応との結果になり、問題となるような高次脳機能障害はみとめられないと評価されました。
歩行も安定したので、安静度は院内自立とされていたとのこと。
元々、膝の痛みがあったので、痛みを我慢しながら歩いている状態は変わりはありませんでした。
退院後のリハビリは必要ありません
退院にむけての説明で、医師から「てんかん」を起こす可能性があるので、発症後1年程度は車の運転は控えるようにと話があったそうです。
入院中にてんかんを起こしたことはなかったのですが、てんかんの予防の薬を飲み続けることになりました。
家族は「退院後もリハビリを受けたいのだが、どうしたらよいか」と医師に相談をしたのですが、医師からはその必要はないと言われました。
高次脳機能の評価でも年齢相応と出ている、今、介護認定を受けたら要支援もつかないかもしれないレベルだ、リハビリを受けるより自分で運動をしてはどうかとすすめられました。
介護保険の利用についての説明もなかったそうです。
家屋や周囲の環境の確認も本人・家族からの聞き取りだけで、実際に評価をすることはなかった、家への外出は一度したようですが、外泊は一度もしなかったそうです。
とまどいながらも、家族は退院日を決めました。
在宅での失敗の連続
退院してからのAさんは失敗の連続でした。
外出しようとして、バイクに乗り、転倒。
自分でバイクを起こすことができなかったようです。
本来、車の運転が禁止なら、バイクの運転も同様なのですが、その説明はされなかったからと勝手な解釈をしてしまいました。
バイクが難しいならと、自転車に乗れば、カーブを上手く曲がれずに、また転倒。
後輪が道に立つバーにひっかかって起き上がれず、道を行く人や近隣のお店の人に助けてもらいました。
「頭を打ってはいけない」ととっさに思ったようで、肘をつき、大きなけがにはいたりませんでした。
お風呂にはどうにか一人で入れましたが、病院とは勝手が違います。
浴槽は狭く、深い。つかまるところもない。
浴槽に入るためには、大きく足を持ち上げなければなりませんが、足を手で持ち上げながら、どうにか入っているそうです。
やっぱり介護保険もリハビリも必要なんじゃない?
家族は困りました。
Aさん本人も「体力が落ちている。ちょっと動くと疲れる。思うようにならない」とやっと問題に気づきました。
やはり、リハビリを受けた方がいいのではないかと、家族は市の介護保険課に相談しに行きました。
ケアマネージャーを紹介してもらい、介護保険を利用して、リハビリを行う、デイケアやデイサービスがあること知りました。
利用する前に体験できると聞き、申し込んだそうです。
また、長距離の移動には電動のセニアカーのレンタルを検討しています。
病院の療法士から安全な移動方法としてセニアカーの提案があったようです。
が、そのときはAさんの頭にはバイクや自転車が乗れるという考えがあったのでしょう。
検討もしなかったそうです。
また家族は市内を循環するバスを利用することや、市の体育館での運動指導を受ける準備も進めているとのこと。
病院と在宅の生活はまるで違うんだ
一連の流れを聞いて感じたこと。
病院での生活と在宅での生活は全く違う。
ごく当たり前のこの事実になぜ、病院側は気づかないのだろう。
発症から3か月ではまだ、脳の血流量は元通りにはなっていません。
脳が情報処理できる容量や速度も低下しています。
とにかく、ちょっとしたことで非常に疲れやすい状態にあります。
Aさん本人も病院の守られた生活のなかでは、大丈夫と自信があったのでしょう。
在宅でも同じようにできるはずと思っていたと思います。
でも、病院と在宅では環境・刺激の量も質も違うから、疲労度も違う。
家のなかは物が多く、よけながら歩かなければなりません。
外に出ても、段差が多く、車や自転車への配慮も必要です。
病院では当たり前にあった物的配慮がありません。
何をするにも、どこに行くにも、相当な気を使わなければなりません。
本人や家族は家に帰ってきて初めてその差に気付きます。
外泊はそれに気づく大きなチャンスですが、その提案は病院からなかったのです。
本人や家族が気づかないのは仕方ありません。
でも、医師・病院のセラピストにそろそろ気づいてほしい。
病院での生活をそのまま在宅での生活にあてはめることは危険なこと。
病院生活で自立しているから、在宅でも自立した生活が送れるとは限らないこと。
本当に、通所でも訪問でもリハビリを入れる必要はなかったのだろうか。
医師や病院のセラピストは、在宅での生活をどの程度、見越していたのか。
Aさん本人の体力や脳の情報処理量の低下は考慮されていたのか。
疑問です。
在宅生活は家族だけで支えきれない
私は在宅でのリハビリを担当していて思うこと。
病院生活から在宅生活にうまく適応するためには専門的に評価して、支える存在が必要だということ。
今回は、行動力のある家族が自ら動いて介護保険のサービスにつなげることができたですが、それができる家族ばかりではありません。
家族だけで問題を抱えたまま、長年経過してしまうケースがあります。
当然のことですが、在宅生活がうまくいかず二次的な問題が起きてから支援者が介入するより、退院後すぐに専門的な視点が入った方が、早く安定した生活に移行できます。
病院側は退院時に安易に「リハビリは必要ない」と判断しないでほしい。
身体機能や高次脳機能だけでなく、在宅での生活を想定して、リハビリの必要性を見極めてほしいと思います。
生活がうまく軌道にのれば、リハビリは2~3か月で卒業してもいいわけですから。

もしリハビリが必要ないと判断されても、せめて、介護保険窓口や相談先を紹介してほしいと切に願います。
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