誤嚥性肺炎は口からものを食べていなくても起こります。
唾液の誤嚥、特に夜間睡眠中の唾液誤嚥が誤嚥性肺炎の大きな原因の1つだからです。
唾液誤嚥からの誤嚥性肺炎の予防に不可欠なのが、口腔ケアです。

食べている、食べていないに関わらず、口腔ケアは全ての人に必要ですよ。
摂食嚥下機能(食べる・飲み込む)のリハビリの専門家である言語聴覚士がわかりやすく、口腔ケアのポイントについてお伝えします。
口腔ケアとは
口腔ケアは食べていない方も絶対すべき!
私たちが食べ物を食べたあとに、歯みがきをすると考えると、食べていなければ歯みがきはいらないんじゃないの?と思いたくなりますが、違います。
口腔ケアは全ての人に必要です!
唾液には口腔内を浄化する作用があります。
食べていない方は唾液の分泌が少ないため、口腔内が浄化されず汚れやすいのです。
ですから、むしろ食べていない人の方が口腔ケアは必要です。
また、誤嚥性肺炎は食べ物を誤嚥した場合だけでなく、口腔内の細菌を含んだ唾液を誤嚥しても起こります。
口腔内を清潔にして、唾液に含まれる細菌の数をできるだけ減らしておくことが誤嚥性肺炎の予防につながります。
誤嚥性肺炎予防についての関連記事

口腔ケアには誤嚥性肺炎を予防する効果があります。
でも、それだけではありません。
口腔ケアの効果
全国11カ所の特別養護老人ホーム入所者を対象に、2年間にわたって行われた調査では、口腔ケアで口の仲を清潔にすることによって感染源となる細菌の数が減り、肺炎の発症が4割、死亡が5割減らせたという結果が。また、口の中に刺激が加わることで、嚥下反射やセキ反射が回復することも明らかに。口腔ケアを行うことで、たとえ誤嚥しても肺炎を起こしにくくする効果、さらには誤嚥そのものを防ぐ効果が期待できる
介護のために口腔ケア P19 より引用(菊谷武 著 講談社)

口腔ケアは誤嚥しても肺炎を起こしにくくし、誤嚥そのものを防ぐ効果が期待できる、まさに一石二鳥のアプローチ!
口腔ケア時に配慮すべきポイント
口のなかは非常にデリケートな場所です。
口腔ケアを行う場合には、配慮すべき点があります。
<口腔ケア時に配慮すべき3つのポイント>
①いきなり触らず、声をかける
突然触られると抵抗したり、拒否したりされる場合があります。
「○○さん、お口に触りますね」
「○○さん、お口をきれいにしますよ」
必ず声をかけてから、さわるようにします。
②肩や腕などの口から離れた場所からさわっていく
急に口のなかにさわるとびっくりさせてしまいます。
肩や腕などからさわって、徐々に口に近づけていきます。
③リラックスできるような環境作り
騒がしく、大声を出さないと聴こえないような環境では、ご本人の身体に力が入ってしまいます。
できるだけ、静かな落ち着ける環境で行うとよいでしょう。
口腔ケアで誤嚥させないための基本的な注意点
次のような条件にあてはまる、誤嚥性肺炎のリスクが高い方は、口腔ケアで誤嚥させてしまわないよう注意しなければなりません。
- 寝たきりの人
- 嚥下障害がある人
- 栄養を胃ろうや経鼻栄養、ポートからの中心静脈栄養でとっていて、経口摂取をしていない人(禁食の人)
- 唾液でむせてしまう人
- うがいができない人
口腔ケアで誤嚥させないためのポイント
①歯のぐらつきや、粘膜の損傷・出血がないか観察する
歯が抜けてしまったり、その歯を誤って飲み込んでしまわないように注意します。
また、出血がある場合は感染予防に留意します。
②手袋を着用する(血液に接触しない、感染予防のため)
使い捨てのものを使用し、複数の利用者に行う場合は利用者ごとに新しい手袋に付け替えます。
③噛まれないように注意する
噛み込みが強い方にはバイトブロックを使用します。
利用者からスタッフへの感染のリスクもありますが、スタッフから利用者への感染の可能性もあります。双方の感染を予防します。
④口腔ケア用ウェットティッシュを使う
水を使用しないので、安全に口腔ケアが行えます。
介護用品 オーラルプラス 口腔ケアウェッティー(すっきりタイプ) 口腔ケアウェットティッシュ 100枚入 |
![]() |
拭いたあとの清涼感が好まれる口腔ケア用ウェットティッシュです
⑤スポンジは水につけたら、必ずしぼる
スポンジにふくませた水を誤嚥しないように、しぼって使用します。
介護用品 オーラルプラス 口腔ケアスポンジ 60本入 |
![]() |
口腔ケアスポンジは使い捨てが基本です。
⑥ぶくぶくうがいは危険 基本的には、水や洗口液(マウスウォッシュ)など水分は使わない。
水を口にふくんでするぶくぶくうがいは非常に誤嚥のリスクが高いです。
④のウェットティッシュ等、水分を使わないで行う方法を検討します。
ベッドアップで口腔ケアをする場合のポイント
洗口液や水を用いないのが原則。
唾液を誤嚥しないように、姿勢や顔の向きに注意が必要です。
ベッドを30度程度起こし、仰臥位(あおむけ)または半側臥位(身体を左右どちらかに斜めに傾ける)にします。
片麻痺の方は顔は非麻痺側(動きがいい方)を下側にする方が安全です。
介助者は体を低くして、目線をあわせる位置で、利用者のあごは引き気味にすると、誤嚥予防の姿勢になります。

上から介助すると、本人のあごが上がってしまい、誤嚥しやすくなります。
これは食事介助のポイントと同じですね。
朝食前の口腔ケアが効果が高い!
口腔内の汚れ(細菌数)が一番多いのはいつだと思いますか?
食後?
寝る前?
口腔内の細菌が一番多いのは「朝起きた直後」です。
細菌測定器で一日の口腔内の汚れを調べた調査の結果からわかりました。
食事をすると口の運動が行われ、唾液による自浄作用でいったん最近の数は減りますが、口腔ケアをしないと増えます。
基本的に口腔ケアは食後すぐに。
特に飲み込む機能が低下している人は、朝食前にも行うと効果が高いといえます。
自分の歯がある方のケアは歯みがきが必須
歯の表面についた歯垢は、歯ブラシでこすり落とさないといけません。
歯垢は細菌の塊で、非常に強くぴったりと歯にくっついているので、洗口液でぶくぶくうがいをした程度では落ちないのです。
歯垢に唾液のミネラル分が沈着すると、「歯石」ができます。
「歯石」は普通の歯みがきでは落とせません。
歯科で専門的なクリーニングを受ける必要が出てきます。
日々の歯みがきが重要ですね。
義歯のケアでも誤嚥予防
義歯のお手入れについては別の記事を参照ください。
正しい義歯のお手入れをすることが誤嚥性肺炎を予防するという視点が重要です。

舌のケアで舌苔をつけさせない
口腔ケアは歯のケアだけをいうのではありません。
舌のケアも重要です。
高齢になると舌にい白い付着物がつくことがあります。
これは「舌苔(ぜったい)」と呼ばれます。
口腔の粘膜が剥がれたもの・食べかす・カンジタというカビの一種がなどが混じり合ってできたりした、垢のようなもの。
舌の表面を覆い、味覚の低下を引き起こします。
舌の上はぬらしたスポンジブラシでこすります。
先ほどもありましたが、誤嚥防止のためにスポンジブラシには水をふくませてから、しっかりしぼります。
舌ブラシや柔らかめの歯ブラシでももちろんいいのですが、こびりついた舌苔は濡らしてふやかすようにした方が取りやすいので、スポンジブラシがオススメです。
ごしごしこすらないように、奥から手前に向かって、ブラシを押し付けるように当てます。
粘膜のケアは優しく
舌と同様に、粘膜のケアも重要です。
上下の口腔前庭(口唇と歯茎のあいだ)・頬の内側・上あごの粘膜の汚れも取り除きます。
上あごは食べ残しが見逃されやすいポイントです。
また上あごの奥をさわり過ぎると、嘔吐反射が出る(おえーっと吐きそうになる)ので要注意。
スポンジブラシまたは口腔ケアウェットティッシュを用います。

ゴシゴシはダメ!
奥から手前になでるように優しくがポイントですよ。
まとめ
・口腔ケアで誤嚥させないよう姿勢、口腔ケアグッズの使用等の工夫を
・口腔ケアの安全な姿勢は、食べるときの安全な姿勢と同じ
・飲み込みの力が低下している人は朝食前の口腔ケアが誤嚥性肺炎予防に効果的
誤嚥性肺炎を予防するためにできる一番簡易で確実に効果があるのが口腔ケアです。
繰り返しになりますが、口腔ケアは全員に必要です。
食べていない方ほど、口腔ケアが大事ですよ!
関連記事はこちら

コメント
[…] […]
[…] […]