STツムジです。在宅を訪問している言語聴覚士です。言語聴覚士は「食べる」「話す」のリハビリテーション専門職です。
嚥下障害の方の訪問をしていて、ご家族やヘルパーさんによく聞かれます。
「むせたときはどうしたらいいですか?」
目の前でごほごほと苦しそうにされたら、何とかしてあげたいと思いますよね。
むせたときにしてはいけない対処法がある
むせたときの対処法を聞かれたときに
「いつもどうされていますか?」と聞き返すと、いろんな答えが返ってきます。
- 「水を飲んでもらいます」
- 「食べ物が飛び散らないようにタオルで口を押えるように言います」
- 「しっかり咳をしてと言います」
- 「背中をトントンたたきます」
- 「背中をさすってあげます」
このなかで適切なのはどれだと思いますか?
そして、怖いのはここにはしてはいけない危険な対処法も入っていることです。
「むせ」が起こる原因
対処法を知るためには、そもそもなぜ「むせ」が起こるのか理由を理解しなければなりません。
「むせ」は本来、食道へいくはずの、食べ物・飲み物・唾液が誤って気管に入ってしまったときに、それを出そうとする体の防御反応です。
人は口からのどを、呼吸の道として、なおかつ、食べる道として使っています。
通常であれば、その道には交差点があるのですが、ときどき暴走車が現れます。
暴走車は食べる道を逸れて、呼吸の道へ入り込んでしまうことがあります。
それが誤嚥です。
そうすると、体は暴走車を食べる道に戻そうとして働きます。
その働きが「むせ」です。
「むせ」は、本来、食道(呼吸の道)へいくはずの、食べ物・飲み物・唾液(暴走車)が誤って気管(呼吸の道)に入ってしまったときに、それを出そう(食べ物の道へ戻そう)とする体の防御反応です。
「誤嚥」と「窒息」
暴走車が呼吸の道に入った状態には2種類あります。
暴走者(食べ物等)が気管(呼吸の道)に入ることが「誤嚥(ごえん)」です。
暴走車(食べ物等)が呼吸の道を完全にふさいで呼吸ができなくなることが「窒息(ちっそく)」です。
むせている人の背中を叩くの(タッピング)は危険
さきほどの対処法を見ていきます。
- 「水を飲んでもらいます」
- 「食べ物が飛び散らないようにタオルで口を押えるように言います」
- 「しっかり咳をしてと言います」
- 「背中をトントンたたきます」
- 「背中をさすってあげます」
このなかで、対処法として最も適切なのは 3.「しっかり咳をしてと言います」です。
なぜなら、「しっかり咳をする」ことは、「むせ」と同様で、気管に入った、もしくは入りかけた食べ物・飲み物・唾液を出すことを促しているからです。
一般に私たちは、食事の席で、むせる、咳をすることは失礼にあたるという常識をもっています。
むせや咳を我慢しようとする方が多いのです。
その常識を変えなければなりません。
嚥下障害の方はむせた方がよいのです。咳をした方がいいのです。
2. 「食べ物が飛び散らないようにタオルで口を押えてと言います」
これはどうでしょうか?
周りの人に迷惑をかけないようにとの配慮はわかります。
ただ、「口を押える」ことで、むせを我慢させてしまうことがあります。
口を押えてもいいですが、やはり「咳をする」ことも促すべきです。
言い方としては「タオルで口を押えて、しっかり咳をして」の方がよいです。
1.「水を飲んでもらいます」は、むせが落ち着いてからの対処方法としてはよいです。
ただし、まだむせている状態のときに、水が入ると、気管に入りかけた食べ物を水が奥に流し入れてしまう危険性があります。ますます、呼吸が苦しくなってしまいます。
まずは、しっかり咳をしてもらってから、呼吸が落ち着いたら、水を飲んでもらいます。
4.「背中をトントン叩きます」 これは、実は危険な対処方法です。
これは一見、いい方法に思えてしまいます。
危険な理由は、背中を叩くことで、気管に入りかけた食べ物を、ますます奥に入れ込んでしまう可能性があるからです。
むせている症例に対して、軽く背中を叩くパーカッション(タッピング)が行われていることがある。昔は気管内の排出パーカッションで補助するという考え方が広まっていたが、現在そのパーカッションの効果は否定されている。とくに誤嚥したときに座位でパーカッションを行うことは、せっかく喀出しようとしている誤嚥物を重力でさらに深い気管支に落とし込むことになり危険である。
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション(野原幹司 編 南山堂)P112より引用
同上 P111より引用
「昔はよいとされていたようですが、今は否定されていますよ」
もしも、周りにむせている人の背中トントン叩いている人がいたら、声をかけてあげたいですね。
5.「背中をさすってあげます」であれば、気管に入りかけた食べ物を、奥に入れ込む影響が少ないです。優しく落ち着かせるように背中をさすってあげるとよいです。
窒息にはタッピングが効果的
むせている人の背中を叩くのは危険と言いましたが、これには実は例外があります。
さきほど、気管に食べ物が入る状態には2種類あると言いました。
暴走者(食べ物等)が気管(呼吸の道)に入ることが「誤嚥(ごえん)」です。
暴走車(食べ物等)が呼吸の道を完全にふさいで呼吸ができなくなることが「窒息(ちっそく)」です。
窒息のときの対応の一つに背部叩打法があります。
固形物の窒息
体重が軽い症例のときは、背部叩打法も一法である。これは、症例を救助者の膝などに乗せて腹臥位にし、頭が胸部より下がった姿勢にしてから、手掌で肩甲骨の間を強く叩くという方法である。
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション(野原幹司 編 南山堂)P112より引用
気管に固形物がつまって、呼吸ができなくなると
- 苦しそうにして声も出ない
- 顔が真っ赤になってきた
- 口唇が紫色になってきた
になります。これが窒息です。
窒息しているときは、一刻も早くつまっているものを動かして、呼吸ができる状態に戻す必要があります。
窒息の場合は背中を叩くのが有効です。
腹臥位(うつぶせ)にして、頭を胸より下げ、手のひらで肩甲骨の間(背中の上の真ん中)を叩くとよいとあります。
高齢者の窒息しやすい食べ物、窒息の原因、窒息への対応方法についてはこちらもどうぞ。
まとめ
嚥下障害の方はむせた方がよい。咳をした方がいい。
そして
むせて、ごほごほと咳が出ている「誤嚥(ごえん)」の場合には背中を叩きません。
完全に呼吸ができなくなってしまっている「窒息」の場合は叩いてもよい。
ということになります。
認知症の方に関わらず、嚥下障害を学ぶのに超オススメ本です。
こちらも参考にどうぞ!
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